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◇美鈴と知紘の出会い 第5話

Penulis: 設樂理沙
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-09 08:19:12

5

      *美鈴と知紘の出会い、それは約8年前に遡る*

*

美鈴の学生生活最後の年のこと。

大学から最寄り駅までの道を変えたところ、毎朝ではないものの

ほとんど朝、知紘とすれ違うようになり社会人で男振りの良い

知紘は大人の素敵な男性に見えた。

それはちょうど美鈴が同級生の宗方守《むなかたまもる》と入学直後から

3年間も付き合いながら振られた直後のことだった。

実際に振ったのは美鈴のほうだったのだが二股に気付いて振ったの

だから、実質美鈴が振られたようなものだ。

美鈴が相手を追い込まなければ、相手の男はふたりの女子の間を泳

いで上手くやろうとしていたので交際はグダグダながら続いていた

のかもしれない。

けれど、性格的に1人の人間を友達ならばいざ知らず、恋人を2人

で分かち合うなんていう気持ちの悪いことはできなかった。

未だ、相手の男子学生からたまにメールなどが届く。美鈴はメール

は勿論のこと、校内で彼に会ってもスルーしている。

このような状況もあり、知紘とすれ違う朝の時間は目の保養タイム

となっていった。

           ********

あれからたまたま学食などで出会わしたりすると、話し掛けて来る元彼の守。

これまでは、怒りMAXでひと言聞くだけでそのあとは振り払っていた美鈴。

しばらく、会うことなく過ごしていたのだが、ある日のことバッタリ学食で

遭ってしまう。

この日は元彼の二股を知り、別れの言葉を叩きつけた日から20日余りが

経過していたせいか、美鈴のほうにも話を聞くくらいの余裕があった。

醒めた目をして、守の話を聞いていた。

「また、連絡するな。じゃあ」

ほとんど、相槌も打たずに彼と向き合ってただそこに棒のように突っ立って

いただけの美鈴に守は愛想よく社交辞令でか? いつメールを出しても返事

をしない美鈴にそう言って離れて行った。

振り返なければ良かった……。

なんと、守が歩いて行った先は、グループになっている男子学生数名と女子

学生数名のいるところだった。

その中の1人の女子が自分と二股して付き合っている女だったのだ。

どこまでも舐めたことをして平気な守に美鈴は反吐が出そうになる。

いつまで、くだらない浮ついた男に心乱されなければならないのか。

あんな男の話をにこにこしながら聞いたわけではないといいつつも

耳を傾けてしまった自分にもほとほと嫌気が差すのであった。

ドッヨ―ンとモグラがいそうな地中深くまで落ち込む美鈴であった。

*

そんなふうにどよーんと凹み続けた生活もまもなく夏休みに入ろうと

していた。

去年の夏休みは課題に追われてアルバイトはしなかった。

時間がたっぷりとれる最後の夏休み、恋人がいれば旅行に行ってみたいと

いう気持ちも沸いてきただろう。

しかし、今の自分はそういった気分の対極にいるわけで、逆に労働をして

自分の身体も心も忙しくさせて、凹んでばかりいるメンタルをどうにか

回復させたいという思いもあり、美鈴はバイトを探そう思うのだった。

夏休みも定期が使えるため、大学の沿線上でバイト先を探すことにした。

沿線上と考えていたのだが、結局大学の最寄り駅近くにある〇〇〇自動車での

書類の整理とデーター入力がメインの仕事内容になっていた。

 アルバイトに行くようになって2日目……。

お客が来ると綺麗な女性スタッフが案内やらお茶出しやらとスマートに

仕事をする姿に惚れ惚れしてしまう。

そう、美鈴はお客が来店するたび彼女たちの仕事ぶりを目に焼き付け

たくてジトっと仕事の手を休めてついつい見入ってしまうのだった。

仕事を割り振ってくれるおじさま社員から時々笑われる。

「なになに、槙野さんもああいった仕事に興味があるの?」

「こちらで見学するようになって興味が沸いてきました。でもたぶん

仕事にはしないと思います」

「興味があるのに?」

「私は芸大を来年卒業します。もう就職先もイラストを活かせるところに

内定も決まってますし」

「そうなんだ」

「私は絵を描くことが小さい頃から好きで、将来はフリーのイラストレーターになりたいんです」

「へぇ~、そうなんだ。なれるといいね。若いっていいね、希望に満ちていて」

そんなふうにおじさま社員と談笑している時に、ドアがノックされた。

入って来たのは、美鈴の見知った顔だった。

「おやっさん、野島さんの例の車の整備終わりましたから連絡お願いします。伝票もあげておきますから、あとはよろしくっ」

「おう、分かったよっ。あぁ、こちら夏休みの間来てもらうことになった

槙野さん。かわいい子だろ?」

『え~、可愛いだなんてそんなぁ~。照れるわぁ~』

私が無駄に身悶えしているといつも朝に顔をちら見するようになって

見知っている知紘が話掛けてきた。

「やぁ、最近朝会ってた彼女だよね。宜しくね」

「ええーっね、おたくら顔見知りだったの? 奇遇だねー」

『ほんと、奇遇だよぉ』

少し気にしてたイケメンさんがバイト先の社員だったなんて。

凹むことが多くなってた私に春がきた! 夏なんだけど。

それからのバイト期間中は自分的に楽園で日々過ごすような感覚で

あんなに頭の中から出て行かなかった元彼のこともどこかへ飛んでゆき

おじさま社員や知紘ややさしいお姉さまスタッフから可愛がられ

バイトが終わった日は帰り道、寂しくて泣いたほどだった。

バイト期間中、知紘からのアプローチは一切なく、帰り道に泣いた理由の

大半がそれだったのかもしれなかった。

おじさま社員の方、綺麗なお姉さまスタッフの方、よくしてもらったのに

ごめんなさい。

そう思いながら皆とお別れして帰ったあと、知紘からLINEが届いた。

『夏休みまだ少し残ってるでしょ? よかったらおじさんと映画でも行かない?』

「ヤッター。宗方守、あたしはあんたなんか足元にも及ばないムッチャ素敵な男性《ひと》に出会ったぜ」

って、私は元彼の守に向けての台詞を吐いていた。

あちゃぁ~その時も、まだ根に持ってたのね、私ったらぁ。

しかし、チーちゃんったらいくら私が学生だからって4つしか違わないのに

自分のこと『おじさん』って言ってたのね。振り返ってみて、そんなことも今思い出せて、なんだか懐かしいなぁ~。

結局、自称『おじさん』も宗方守と同類だったんだけど。

私って男運悪すぎない? はぁ~。

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    62ウォーキングのイベント帰りのレストランで美鈴は根本が東北出身の霊能者であることを知らされ、自分の身近であった信じられないような金星人の綺羅との接触があったことなどを当てられてしまう。金星からやって来たという綺羅々との出会いだけでもすごいことなのに、何ですと……根本さんはいろいろと人のことが視えるのだとか。自分とは一生縁のなさそうな人たちに2人も遭遇する自分って一体……。穿った見方考え方をするならば、え~ともしかして、私も金星にいたことがあり どこかの過去世でイタコだったことがあるとか? ふっ、いくら何でも穿ち過ぎだよね。レストランでの食事の後、私は自宅まで車で送ってもらった。私が車から降りると彼も一緒に外に出て来て、私に声を掛けてくれた。「身体の方は大丈夫?」「心地よい疲れなので入浴したらそのまま今夜はぐっすりと眠れそうです。今日のイベント、誘っていただいて良かったです。誰にも話せなかったことも話せましたし」「そりゃあ良かった。今日はお疲れさまでした。また、連絡します」「はい。根本さんもお疲れさまです。送っていただいてありがとうございました」私は数奇屋門先で彼の車が小さくなるまで見送り、それから庭につながる敷地に足を踏み入れた。今日は午前中から移動で車に乗り、独りではなく誰かと一緒に食事をし、誰かと一緒に歩いて宇宙人を探し、帰りも誰かと一緒にまたまた食事をして……独りじゃなくて誰かと一緒に自宅まで帰って来た。こちらに引っ越すと決めた日には、この先ずっと1人で暮らしていくのだと気負いを持ってこの家に住み始めたのに、根本さんのお陰でずーっとずっーと独りというわけでもなく、楽しい日々を過ごせている。また連絡くれるって。たった1人とだけど、繋がっていられる人のいる暮らしは、ほっとする。そこには、心の中にある寂しさを補ってくれる力がある。とにかく、お風呂に入ってまったりしよう。私はその夜、久しぶりに綺羅々のことを思った。彼を呼べば……そして彼にどうして私の前に現れたのかを訊けば何か分かるのだろうか。そんなことを考えているうちに私は夢の中へと誘《いざな》われていった。

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇彼女を譲ったりはしない 第61話

    61  ― 根本、美鈴の過去世を視る ―「目をつむってくれますか?  僕は少しの間あなたのことを集中して視ることにしますから」根本さんから指示されて私は瞼を閉じた。 それはものの30~40秒の間のことだっただろうか。「はい、もういいですよ」 と彼から言われ私は目を開けた。 「彼はどうやら前世であなたと知りたいだったみたいですね」   「恋人同士だったとか夫婦だったとかって、そういうことでしょうか?」「いえ、そういうのではなさそうです。 人間界で言うなら、同じ職場の同僚だったようなそれくらいの関わりですね。どうしたのでしょうね、わざわざ金星からあちらでの時間軸が違うとはいえ、時間を費やして来ているわけですから。あなたに恋でもしていたのじゃないですか。 地球にまでわざわざやって来ているのですから。きっと、野茂さんの熱烈なファンだったのかも」「えーっ、そんな付き合ったり結婚していたわけでもないのに、わざわざ?   ストーカーには見えませんでしたけど」私ったら、あんなに素敵で、しかも私を慰めてくれた人に対して、 ストーカーだなんて言葉を口にしたりして。少し、自己嫌悪。          ◇ ◇ ◇ ◇ 俺はそれ以上、彼女に何も告げなかった。金星人の彼が過去世で彼女に対してどれほどの想いを抱えていたのかを。そして、もう一つ重大なこと……彼女もまた彼に惹かれていたという事実を。話すべき機会《時》が来れば、その折には話してもいいかもしれない。だからといって、彼女を譲ったりはしないがな。

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇私は霊能者 第60話

    60  ― 特殊な能力者 ―「さっきの話だけど、僕は元々東北の方の生まれでね、そういう家系なんだ」「そういう家系とは?」「つまり、霊能者ってこと」「青森と言えば、女性霊媒師でイタコのことは聞いたことありますけど、でも確か男性のイタコは聞いたことないですね」「そう? 過去テレビなどで取り上げられていたのがたまたま女性ばかりだったからかもしれないね。でも確率の問題で沖縄のユタなんかもそうだけど、男の霊能者を名乗る人間は結構いますよ」根本さんの言い方に違和感を感じて私は失礼を承知で質問を投げかけた。「偽者もいるということでしょうか?」「そう……ですね、中にはいるかもしれません。ちらっと数人に対する偽者発言は聞いたことありますね」「……ということは、根本さんは本物ということでしょうか? あっ、失礼しました。不躾な質問をしてしまいました」「大丈夫ですよ。野茂さんのように考えてしまう人が大半でしょう。ただ本当に救いを求めて困ってる人には、本物の霊能者に出会ってほしいと思います。困ってる人は藁をも縋るという精神状態ですからね。ただ、信じても信じなくても僕はどちらでも構いません。本業はちゃんと別にありますし、仕事として人に何か手助けをしているわけでもないので。ただ、今回のあなたへの発言は間違っていない自信があります。どうですか?」「はい。普通の人が聞けばキ〇ガイ扱いされそうですが……。数か月前、私が凹んで打ちのめされていた時に、私を励ましてくれた金星人? ですかね。金星から来たという人と植物園で遭遇しました」 「その人物はあなたに会いに来た目的を何か話しましたか?」「え~っと、それは何も聞いていません。ほんと、どうして私の前に突然現れたのでしょう。私ったら呑気ですよね。根本さん、何か分かりますか?」

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇ウォーキングに参加 第59話

    59結局その後、メールの遣り取りを経て、私は根本さんに誘われる形で市の『宇宙人を探せ! in 宝が池公園』と銘打つウォーキングに参加することとなった。参加を決めてから当日までを数えると20日余り。健康と美容のためもあり、私は毎日人気《ひとけ》や車の往来の少ない道を選んで練習を重ね日々を過ごした。……そして、イベント当日を迎える。私たちは根本さんの車で現地まで行くことにしたのだが、周辺の駐車場が少ないため、予定時刻よりかなり早めに出発し最寄りのカフェで朝食を摂ることにした。私はドーナツと紅茶を、根本さんはサンドイッチとコーヒーを注文し時間を潰《過ご》した。外を歩くにしても公園内で時間を潰すのにも、今が暑からず寒からずの良い気候なので助かる。食後しばらく胃袋を休ませてから、私たちは公園へと向かった。― ある日、宝が池公園に宇宙船がやってきた……というSTORY. 宇宙船に乗っていたのは、ご当地観光ツアーに来た宇宙人で、わくわくが止まらない宇宙人は、ツアーガイドの言うことを聞かず好き勝手に行動しはじめてしまったという設定。宇宙人を探し出すというのがミッションだった ―いや、何て言うか……親子連れとかだと楽しくて良い企画だと思うけど。でもまぁ、ひたすらゴール目指して歩くだけよりは途中でおさぼりもできそうだし、いっか。根本さんが何才なのかは知らないけど私と似たような年齢だと思うから何が悲しくておばさんとおじさんがこんな子供向けのイベントに参加とは……とほほのホと思わなくもないけど、よいお天気だし気持ちよく過ごそう~っと。しばらくの間、ここかなあそこかなと探しまくっていたけれど人目のつかない場所で何度か私たちは休憩し《だらけ》た。2回目の休憩迄は『宇宙人はどの辺にいるのだろう』と今回の趣旨に外れない会話だったが、3回目の休憩タイムに入った時のことだった。「野茂さん、最近金星人と接触したことあるでしょ」と根本さんから言われた。えーっ、一体全体~どういうこと? 大体からして、金星人という言葉自体普通の人間の人知を超えた単語で、尚且つ私がその疑わしいような金星人と出会っているなんてことを知っているなんて、根本さん……何者なのじゃ。実際自分が体験しているというのに、私は頭が真っ白になるわ、胸はドキドキするわで、

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇楽しいをシェア 第58話

    58『一人で水族館巡りかぁ~』なんて考えていたら、すっと自然に側にいた根本さんから話し掛けられてそのまま一緒に見て回る雰囲気になった。あちこちあ~だこうだと話しながら、最後には一緒に座り何年か振りにイルカショーを見た。彼と声を掛け合って楽しいをシェアできて気持ちよかった。気付くと自分に笑顔が増えていたー。普段使ってない筋肉をめいっぱい使ったような気がする。さて、次に訪れたのは京友禅体験工房での染め物体験だった。何種類かあるうちの型紙を選んで染料を筆に取り塗って染めていく。仕上げた後で根本さんと見せ合いっこして、感想を言い合った。イケボとの会話は殊の外、心が癒された。そしてその次に行ったのがビール工場の見学で機械を見たり、ぬいぐるみと一緒に撮影したり……私と根本さんふたりで一枚のフィルムに中に納まった。『ねぇ、確実に私……運気上がってない?』存外に楽しくて、バスから降りる段になるとあっという間の一日だったなぁ~なんて思えた。自宅に戻れる安堵感と共に、ひょいと寂しさが顔を出す。「今日は1人きりでの行動だと思っていたのに根本さんと同行できて楽しかったです。ありがとうございました」「それはわたしのほうです。やっぱりおしゃべりできる相手がいると楽しいし、時間の過ぎるのがあっという間でしたね。ははっ。」「じゃあ、これで失礼します」そう言い、美鈴が潔く踵を返し歩き出したあと、根本から思い出したかのように呼び止められた。「そうだ! 自分のところの宣伝みたいで申し訳ないですが……」美鈴は声の主の方へ振り返り首を傾《かし》げて返した。「はい?」「実はですね、もうすぐ毎年恒例のウォーキングイベントがあるのですが、 よろしければ参加してみませんか? 一緒に参加するご友人とかご家族がいらっしゃらないのであれば、わたしがお供しますので」目の前のイケボが言う。『わたしがお供しますので……』『わたしがお供しますので…』『わたしがお供しますので』行くに決まってるでしょ。「予定が入っていなければ、参加させていただきますね」「ありがたい。じゃぁ、詳細をご連絡したいので名刺に載せてるわたしのメールアドレスに空メール送ってもらえますか」「……はい分かりました。今どきは名刺にメルアドも書いてあるんですね」「はははっ、役所

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